このページでは量子力学の教科書を紹介します。

量子力学の勉強において重要なことは、その古典力学とは異なる理論形式をマスターすることです。とくに量子力学では測定の概念が重要であり、量子測定理論として整備されています。古い教科書だと測定理論や不確定性関係について正しい記述がなされていないことがよくあります。したがって、最近の正しく書かれた教科書で勉強することが必須です。シュレディンガーの猫がパラドックスではないことやベルの不等式の破れ、量子テレポーテーションといった現象は理解したほうがよいでしょう。

量子力学の勉強には、清水さんの教科書を読んでから、猪木・河合かJ.J.サクライの教科書を読むのがいいと思います。


contents

量子力学の枠組みを理解するための本

初級レベル

量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために (新物理学ライブラリ, 清水 明)

量子力学の枠組みを理解することに重点が置かれた日本で唯一の教科書です。Bellの不等式のような量子論の本質的な事象の解説はされていますが、具体的にシュレディンガー方程式を解くような原子分子物理の問題(水素原子とか)はあまり載っていないので、他の本を読んで補う必要があります。このようなタイプの日本語の量子力学の本はほとんど無いので一読の価値があります。

具体的には、はじめにブラケット記法と簡単な(無限次元の)線形代数の解説を行う。その後、量子力学の要請から(物理で行われるレベルの)数学的な議論をして、量子力学の体系を説明している。この要請とそこから導かれる基本的な内容を理解することがこの本の目的だろう。この本だけだと量子力学の具体的なイメージが湧きにくいので、理解するためには啓蒙書レベルの量子力学の本も読んでおき、ある程度量子力学のイメージをつけておいた方がよい。前提知識としては学部1年で学ぶ程度の線形代数と微分積分、あと解析力学の知識があるといいと思う。具体例では主にスピンが扱われるので、スピンも知っておく必要がある。 個人的には、読者の対象を広くして書かれているため初学者が勉強するには読みづらくなってしまっていると感じる。(スペードマークのところは削って、初学者だけを対象にした方がいいな~と思っている。、高度内容は量子論の発展の方に書けばいいのに。)そのため、初学者に勧める本なのかどうかは迷っている。 他の本で量子力学を勉強した人はぜひこの本を読んで量子力学の体系を考えてみてほしい。 相転移Pのtogetter「量子力学に関する質疑応答」も参考になる。

量子力学の基礎 (北野 正雄)

清水本に近いようなスタンスの教科書です。電気電子工学のための量子論という講義のノートが元になっているそうです。


量子力学による物理系の解析やテクニックを勉強する

中級レベル

量子力学1,2 ( 猪木 慶治、 川合 光)

例題を通して学んでいくタイプの珍しいタイプの教科書です。J. J. Sakuraiでは扱っていない基礎的な内容も載っています。2巻目では電磁場の量子化やDirac場についても載っていて話題は豊富です。全体的に舌足らずな部分はありますが、難しい本ではなく自習しやすいです。ただしLie群のところを本書で理解するのは不可能に近いと思います。Lie群の所は飛ばして読んでもその後の議論に差し障りないです。Amazonのレビューでは意見が分かれていますが、清水さんの量子論の後に読むには調度良いと思います。

現代の量子力学〈上、下〉 (物理学叢書、 桜井 純)

ブラケット形式を用いて論旨明快な記述がなされていて、とても読みやすいです。猪木・河合の本に比べると取り扱っている話題は狭いですが、丁寧に書かれているように感じます。とくに角運動量と対称性のところは素晴らしいです。メシアやシッフでは書かれていない内容に重点を置いているため、基本的なシュレディンガー方程式を解く問題(水素原子とか)については解説が載っていないので、他の本([猪木・河合]でOK)で勉強する必要があります。演習問題も多く、問題のレベルも極端に高くはなく取り組みやすくて良いです。猪木・河合の本とJ. J. Sakuraiの本を読めば、標準的な学部レベルの量子力学の知識としては十分だと思います。

The Physics of Quantum Mechanics (James Binney and David Skinner)

コンパクトにまとまっている本の中で、良いと思っている量子力学の教科書です。はじめにブラケット記法の説明をしてから、水素原子や摂動論の説明をしています。不確定性関係が測定装置に由来するものではなく、量子状態そのものから生まれでてきていることを断言しています。また、量子情報理論や水素原子やLie群の説明も載っています。


上級レベル

Quantum Theory, Groups and Representations:An Introduction (Peter Woit)

超弦理論への批判本『ストリング理論は科学か』でも有名な理論物理学者Peter Woitの本です。量子力学の勉強用ではなく、物理の人が表現論の勉強するのに良いです。量子力学で現れる群とその表現論について詳しく書かれています。SO(3), SU(2) ,スピノルを理解するのにとても役に立ちます。

量子力学 (現代物理学叢書、河原林 研 )

普通の量子論の本には載っていないテーマを扱っていて面白いです。しかし、上にあげた本に載っているような量子力学の知識とLie群の知識がないと理解するのはキツイです。Amazonには「本書は、量子力学をこれから本格的に学ぼうとする人たちを対象に、基礎的事柄に重点をおいて解説する。現代物理学的要素と新鮮な話題を取り入れ、本講座他巻で展開される量子物理学の内容を、よりよく理解するための入門書をもかねる。」という説明がありますが、基礎的事柄に重点をおいて解説しているわけでもないし、入門書でもありません。新鮮な話題を取り入れているという部分については正しいです。

現代量子物理学―基礎と応用(上田 正仁)

J.J.Sakuraiの教科書は「現代の」と言いつつも30年以上の前の本であり、内容的には現代的ではありません。この本は新しく、内容的にも現代的といえる教科書です。古い教科書で書かれている内容については詳しく書かれていないので、従来の教科書の補足として読むと良いです。